九州電力(9508)投資レポート¶
会社概要¶
基本情報¶
九州電力株式会社(証券コード:9508)は、昭和26年(1951年)5月1日に設立された、福岡県福岡市中央区渡辺通二丁目1番82号に本社を置く電力会社です。九州7県(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県)を営業エリアとしており、東京証券取引所プライム市場および福岡証券取引所に上場していますkyuden.co.jp。
事業内容¶
九州電力グループは以下の4つの事業セグメントで構成されています:
- 国内電気事業
国内における発電・小売事業
九州域内における送配電事業(九州電力送配電株式会社)
- その他エネルギーサービス事業
電気設備の建設・保守など電力の安定供給に資する事業
ガス・液化天然ガス(LNG)販売事業
石炭販売事業
再生可能エネルギー事業(九電みらいエナジー株式会社)
海外事業
- ICTサービス事業
情報通信事業
データセンター事業
電気通信事業
- 都市開発事業
オフィスビル・住宅等の不動産開発
ホテル・レジャー施設等の運営
エリア開発事業
従業員数は単独で4,668名、連結では21,092名となっていますULLET。
株価および財務情報¶
株価情報(2025年4月時点)¶
九州電力の最新株価(2025年4月1日時点)は、始値1,328.50円、高値1,354.50円となっています。過去1年間の株価推移を見ると、2024年5月に最高値1,893.92円を記録した後、全体として下落トレンドが続いており、2025年2月に最安値1,310.84円まで下落しました。その後、若干の回復を見せていますが、全体としては下降傾向が継続していますYahoo Finance 9508.T。
財務情報¶
2023年度(2024年3月期)決算
- 売上高
2兆1,394億円(前年度比3.7%減)
- 経常収益
2兆1,699億円(前年度比3.4%減)
- 経常利益
2,381億円
- 親会社株主に帰属する当期純利益
1,664億円
収入面では、総販売電力量の減少などにより小売販売収入および卸売販売収入が減少しましたが、支出面では原子力発電所の稼働増や燃料価格の下落などにより燃料費が減少し、卸電力市場価格の下落などにより購入電力料も減少したため、利益を確保しています九州電力。
2024年度(2025年3月期)第2四半期決算
- 売上高
1兆1,511億円(前年同期比6.1%増)
- 経常収益
1兆1,664億円(前年同期比6.1%増)
- 経常利益
1,032億円(前年同期比減少)
- 親会社株主に帰属する中間純利益
742億円(前年同期比減少)
収入面では、卸売販売電力量の増加や容量確保契約金の計上などにより増収となった一方、支出面では卸電力市場価格の上昇や他社受電の増加、容量拠出金の計上などにより購入電力料が増加したため、増収減益となっています九州電力。
2024年度(2025年3月期)通期業績予想
- 売上高
2兆3,000億円(前年度比7.5%増)
- 営業利益
1,500億円(前年度比41.2%減)
- 経常利益
1,300億円(前年度比45.4%減)
- 親会社株主に帰属する当期純利益
1,000億円(前年度比39.9%減)
燃料費調整制度の影響による料金単価の上昇や夏季の高気温による冷房需要の増加などにより売上高は増加する見込みですが、燃料費調整の期ずれ影響などにより、減益となる見通しです九州電力。
投資指標¶
- PER(株価収益率)
5.8倍
- PBR(株価純資産倍率)
0.60倍
- 配当利回り
4.08%
- 配当性向
7.3%
事業戦略と成長展望¶
グループ経営ビジョン¶
九州電力グループは「九電グループ経営ビジョン2030」を策定し、以下の3つの戦略を中心に事業展開を進めています:
- 戦略Ⅰ:エネルギーサービス事業の進化
低炭素で持続可能な社会の実現に挑戦し、より豊かで、より快適な生活を顧客に提供することを目指しています。
- 戦略Ⅱ:持続可能なコミュニティの共創
九州各県の地場企業として、新たな事業・サービスによる市場の創出を通じて、地域・社会とともに発展していくことを目指しています。
- 戦略Ⅲ:経営基盤の強化
経営を支える基盤の強化を図り、九電グループ一体となって挑戦し、成長し続けることを目指しています九州電力。
再生可能エネルギーへの取り組み¶
九州電力グループは、再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組んでおり、特に地熱発電では国内の約40%以上のシェアを持っています。
現在の再生可能エネルギー設備保有量:
- 太陽光発電
9万kW
- 風力発電
6万kW
- 地熱発電
22万kW
- バイオマス発電
15万kW
- 合計
52万kW(日本国内で第3位)
さらに、2030年における再生可能エネルギー開発目標として500万キロワット(持分出力250万キロワット)の達成を目指し、九州域内だけでなく、九州域外や海外でも再エネ開発を拡大していく計画です九州電力。
TSMCの進出が九州電力に与える影響¶
TSMCの九州進出と電力需要¶
台湾積体電路製造(TSMC)は2024年2月に熊本県に日本初の生産拠点を開設し、本格稼働を開始しました。この工場の電力需要は非常に大きく、九州電力の業績に大きな影響を与えると考えられます。
- TSMCの電力消費規模
年間9億キロワット時(一般家庭約30万世帯分に相当)
第2工場を含めて30万~40万キロワット程度の消費電力
- 九州エリアの電力需要予測
九州電力の統合報告書2024によれば、九州エリアの産業用電力需要は以下のように推移すると見込まれています:
2024年:3兆0,612億kWh
2025年:3兆1,124億kWh
2033年:3兆2,771億kWh
これは主にTSMCをはじめとする半導体工場やデータセンターなどの立地、電化の進展によるものと考えられます。
短期的な業績への影響¶
- 売上高への影響
TSMCの本格稼働による電力需要の増加は、すでに九州電力の売上増加に貢献しています。特に卸売販売電力量の増加が見られる点は、大口需要家向けの電力供給増加を示唆しています。
- 利益への影響
一方で短期的には、送配電設備の増強など設備投資負担の増加や、燃料費調整の期ずれ影響などにより、一時的に利益は減少する見込みです。
中長期的な業績への影響¶
- 電力需要の継続的増加
TSMCの進出は単なる1社の進出に留まらず、関連企業の連鎖的な進出を促しています:
九州経済調査協会によると、TSMC進出による九州への経済波及効果は2021~2030年の10年間で約23兆円と推計
九州フィナンシャルグループの試算では、TSMCなどの進出に伴う熊本県内への経済波及効果として、2022~2031年の10年間で約11兆2,000億円と見積もられています
- 設備投資と財務への影響
九州電力は半導体関連の需要増に備えて積極的な設備投資を行っています:
九州電力の送配電子会社は2027年度までの5年間に約6,500億円の設備投資を計画
これは2022年度までの5年間と比べて約1割増の投資規模となります
- 株価への好影響
半導体産業の集積による電力需要増加は、投資家からも好感されています:
2024年10月時点で、九州電力と北海道電力の株価は「半導体投資の恩恵」を受け、昨年末比で約6割高と電力10社で突出しています
投資家の間では「TSMCの恩恵はこれから」との見方も存在し、長期的な株価上昇が期待されています
九州電力の競争優位性¶
九州電力がTSMCなど半導体企業から選ばれる理由には以下があります:
- 安価な電気料金
九州電力は原子力発電所の再稼働が進んでおり、電源構成は原子力・火力・再エネがほぼ3分の1ずつバランスが取れています。これにより比較的安価な電気料金を提供できることが、大量の電力を消費する半導体産業の投資判断に追い風となっています。
- CO2排出係数の低い電気
九州電力は「競争力のある電気料金水準」と「CO2排出係数の低い電気」を強みとしており、環境負荷の低減を目指す半導体企業にとって魅力的です。
リスク要因と課題¶
市場・競争環境関連リスク¶
- 競争環境の変化
気温・気候の変化、経済・景気動向、カーボンニュートラルに向けた電化・省エネの進展、競合他社との競争状況の変化
- 市場価格の変動
燃料価格(LNG、石炭)の調達価格変動、外国為替相場の変動、金利変動による借入費用の変化、卸電力取引所での取引価格変動
事業構造関連リスク¶
- 原子力発電関連
法令・基準の変更や訴訟に伴う運転停止、設備投資増加等の影響
- 原子燃料サイクル
日本原燃株式会社の財務状態悪化に伴う保証債務リスク
- 原子力バックエンド事業
廃炉費用や再処理・処分費用の変動リスク
規制・政策関連リスク¶
- 電気事業関係の制度変更
政府のエネルギー基本計画、GX実現に伴う規制・制度変更
- 気候変動への対応
化石燃料賦課金の上昇、規制強化、低脱炭素化への対応不足
自然災害・システム関連リスク¶
- 設備事故・故障
自然災害(地震、津波、台風、集中豪雨)やインフラの高経年化
- 燃料供給支障
燃料調達の困難化
- ICTシステム障害
システム障害やサイバー攻撃
オペレーショナルリスク¶
- 業務上のリスク
法令違反、人権侵害、環境汚染、コンプライアンス上の問題
- 人的資源
人材確保の困難化、従業員エンゲージメントの低下
このようなリスクに対し、九州電力では定期的なリスク抽出・分類・評価を行い、全社及び各部門の事業計画に具体的な対応策を盛り込むリスクマネジメント体制を整備しています九州電力。
株主還元¶
配当政策¶
九州電力の配当金受領株主確定日は、期末配当金が毎年3月31日、中間配当金が毎年9月30日となっています。2024年度の中間配当額は普通株式1株につき25円となりました九州電力。
過去の配当額の推移を見ると、2024年3月期は年間35円の配当を実施し、2025年3月期は年間50円への増配を予定しています。これは12年3月期以来13年ぶりの50円配当の復活となり、株主還元の強化を示しています東洋経済。
株主構成¶
九州電力の株主構成(2025年3月31日現在)は以下の通りです:
普通株式の主要株主
- 1位:日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)
73,498千株(15.5%)
- 2位:株式会社日本カストディ銀行(信託口)
29,691千株(6.3%)
- 3位:明治安田生命保険相互会社
20,594千株(4.3%)
- 4位:JPモルガン証券株式会社
10,910千株(2.3%)
- 5位:九栄会
10,168千株(2.1%)
普通株式の株主総数は171,236名となっています。
B種優先株式の株主
- 株式会社みずほ銀行
800株(40.0%)
- 株式会社日本政策投資銀行
800株(40.0%)
- 株式会社三菱UFJ銀行
400株(20.0%)
投資判断ポイント¶
強み¶
- 安定した事業基盤
九州地域における電力供給の基幹を担っており、安定した収益基盤を有しています。
- 再生可能エネルギーにおける強み
特に地熱発電で国内の40%以上のシェアを持ち、再エネ開発においても積極的な姿勢を見せています。
- 原子力発電所の稼働
川内原子力発電所や玄海原子力発電所が稼働しており、低炭素電源として安定した電力供給に貢献しています。
- 多角的な事業展開
電力事業だけでなく、ガス・LNG販売事業、海外事業、ICTサービス事業、都市開発事業など多角的な事業展開を行っています。
弱み¶
- 市場環境の変化による影響
燃料費や卸電力市場価格の変動により、収益が大きく左右される傾向があります。
- 規制環境の変化によるリスク
電力事業は規制に大きく影響を受ける産業であり、政策変更によるリスクを抱えています。
- 自然災害リスク
台風や地震など九州地域における自然災害リスクに対する対応が常に求められています。
- 株価の下落トレンド
直近1年間の株価は下落トレンドにあり、市場からの評価が厳しい状況です。
投資機会¶
- 再生可能エネルギー事業の拡大
2030年に向けた再エネ開発目標500万kWの達成に向けた取り組みは、今後の成長ドライバーとなる可能性があります。
- 株主還元の強化
2025年3月期には13年ぶりに年間50円配当に復活する見通しであり、株主還元の強化が進んでいます。
- 海外事業の展開
国内の電力需要が伸び悩む中、海外事業の拡大による新たな収益源の確保が期待できます。
- カーボンニュートラルへの取り組み
低炭素社会への移行に伴う新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
リスク要因¶
- 燃料価格の変動リスク
燃料費の高騰は収益に大きな影響を与える可能性があります。
- 電力自由化による競争激化
競争の激化により、顧客の流出や電力価格の低下圧力が生じる可能性があります。
- 原子力発電所の運転停止リスク
自然災害や法令変更等により原子力発電所が停止した場合、収益に大きな影響を与えます。
- 規制環境の変化
エネルギー政策の変更や規制強化により、既存のビジネスモデルに影響が出る可能性があります。
結論¶
九州電力は九州地域における電力供給の中核を担う企業として安定した事業基盤を持ち、再生可能エネルギー事業や多角的な事業展開によって成長を目指しています。また、配当の増額など株主還元にも積極的に取り組んでいる点は評価できます。
一方で、電力業界は市場自由化や規制環境の変化、再生可能エネルギーの普及による競争激化など、大きな変革の時期を迎えており、これらの変化にいかに対応していくかが今後の課題となります。
個人投資家としては、以下の点に着目して投資判断を行うことをお勧めします:
再生可能エネルギー事業の進捗状況と収益への貢献度
原子力発電所の安定稼働の継続性
電力市場の価格動向と収益への影響
配当政策の動向(50円配当の継続性と今後の株主還元策)
カーボンニュートラルに向けた取り組みと新規事業の展開状況
短期的には株価が下落トレンドにありますが、中長期的には再エネ事業の拡大や海外展開など成長戦略の推進により、企業価値の向上が期待できる可能性があります。また、配当利回りの観点からも魅力的な投資先になりうる点は注目に値します。