全国保証(7164) 投資レポート¶
会社概要¶
全国保証株式会社(証券コード:7164)は、1981年の設立以来、住宅ローン保証を中心とした信用保証事業を展開している企業です。同社は特定の金融機関グループに属さない独立系の保証会社として、全国の金融機関と提携して住宅ローンの連帯保証人を引き受けるサービスを提供しています。保証債務残高は17兆円を超え、国内最大級の住宅ローン保証会社となっています[1]。
ビジネスモデル¶
全国保証のビジネスモデルは、住宅ローンの借入申込者の連帯保証人となることで、金融機関のリスクを軽減し、住宅ローン市場の活性化に貢献するものです。具体的なフローは以下の通りです:
お客様が金融機関に住宅ローンの申込みを行う
金融機関より保証審査依頼を受けた全国保証が、保証審査を実施
審査結果を金融機関に回答
お客様は住宅ローンの借入時に、全国保証に保証料を支払う
万が一、お客様が返済困難になった場合、全国保証が金融機関に対して残債を代位弁済
代位弁済後、全国保証はお客様と相談しながら返済(回収)を進める
このモデルにより、個人が連帯保証人となるリスクや負担を軽減し、金融機関にとっては住宅ローンの貸出リスクを抑える役割を果たしています[2]。
強みと特徴¶
全国保証の主な強みと特徴は以下の3点にまとめられます:
- 独立系保証会社としての柔軟性
特定の金融機関グループに属さないため、様々な金融機関(メガバンク、地方銀行、信用金庫、信用組合など)と提携し、リスク分散を図れるとともに、多様なニーズに合わせた保証商品の設計が可能。
- 全国ネットワーク
全国13拠点の営業ネットワークを活用し、地域に密着した「顔の見える保証会社」として、地域特性に即した審査や債権管理、きめ細かいサービスを提供。
- 豊富な経験とデータに基づく審査能力
40年以上にわたる信用保証業務の経験から蓄積された独自のノウハウと豊富なデータを活用し、迅速かつ精度の高い審査を実施[3]。
業績・財務分析¶
最新の業績¶
2024年3月期の連結決算では、以下の業績を達成しています:
- 営業収益
516億円(前年同期比+2.7%)
- 経常利益
415億円(前年同期比+0.3%)
- 親会社株主に帰属する当期純利益
287億円(前年同期比+0.7%)
- ROE
13.4%(前年同期比▲1.2ポイント)
2025年3月期の業績予想(2024年5月9日発表)は以下の通りです:
- 売上高
557億円(前期比+7.9%)
- 営業利益
406億円(前期比+3.8%)
- 経常利益
432億円(前期比+3.9%)
- 最終利益
300億円(前期比+4.2%)
- EPS
444.5円(前期比+6.1%)
- 1株当たり配当
197円
成長と収益性¶
全国保証は安定した成長を続けており、住宅ローン保証債務残高は継続的に拡大しています。
- 保証債務残高のCAGR(年平均成長率)
約8.3%
- 新規保証実行額のCAGR
約7.5%
これは、住宅ローン市場全体の成長率(新規貸出の年平均成長率約2.1%)を大きく上回るペースです。また、オーガニック成長(既存住宅ローン市場での新規獲得)とインオーガニック成長(M&AやRMBS取得)の両面から保証債務残高を拡大している点が特徴です[6]。
投資指標¶
- PER(株価収益率)
12.5倍
- PBR(株価純資産倍率)
1.84倍
- 配当利回り
3.42%
- 配当性向
40.6%
株価パフォーマンス¶
過去3年間の株価推移を見ると、全国保証の株価は上昇トレンドを示しています。2022年5月には2,138円程度でしたが、2025年4月には3,036円まで上昇しており、約42%の上昇となっています。配当については、2024年3月に85.0円、2025年3月に104.5円と、増配傾向が確認できます[7]。
市場環境と競合状況¶
住宅ローン保証市場¶
住宅ローン新規貸出市場は約20兆円、民間金融機関住宅ローン市場は約19兆円の規模があり、この中で全国保証のシェアは8.9%(1.7兆円)となっています[8]。住宅ローン全体の市場は巨大であり、全国保証の現在のシェアは10%未満であることから、まだ十分な成長余地があるとされています。
競合状況¶
住宅ローン保証事業においては、金融機関の子会社や地域金融機関が共同出資で設立した保証会社が多くを占める中、全国保証は独立系の保証会社として独自のポジションを築いています。
主な比較対象として、会社四季報オンラインでは以下の企業が挙げられています:
- オリコ
8585
- ジャックス
8584
- eギャラン
8771
しかし、住宅ローン保証に特化した独立系企業としては、全国保証が圧倒的なポジションを構築しています[9]。
中期経営計画と成長戦略¶
中期経営計画「Next Phase」の概要¶
全国保証は、2023年度~2025年度までの3年間を計画期間とする中期経営計画「Next Phase」を策定しています。この計画では、「更なる成長と価値創造を実現する住宅ローンプラットフォーマー」を目指す方針を掲げています[10]。
主要な成長戦略¶
- 基幹事業の拡大
新規保証実行の安定的な獲得
M&AやRMBS購入によるインオーガニック成長の推進
保証債務残高の積み上げと市場シェアの拡大
- 周辺事業への進出
住宅ローン関連のプラットフォーム構築
「川上」「川中」「川下」戦略による物件選択、審査、融資、債権回収などの関連事業統合
エンドユーザーへの付加価値提供の強化
- 資本政策とESGの取り組み
適切な自己資本の確保と成長投資
人的資本の強化とガバナンスの充実
気候変動対策など環境面への配慮
2025年3月期には保証債務残高を19兆円まで拡大する計画であり、中期経営計画の初年度は計画を上回るペースで推移しています[11]。
株主還元政策¶
配当方針¶
全国保証は株主への利益還元を重要な経営課題と位置づけ、強固な財務基盤の構築に必要な内部留保を確保しつつ、継続的かつ安定的な配当を行うことを基本方針としています。毎年3月31日を基準日として株主総会決議による年1回の配当を行うことを予定しています[12]。
配当実績と計画¶
全国保証は、上場以来8期連続で増配を続けています。2025年3月期の予想1株当たり配当は104.5円であり、予想配当利回りは約3.4%となっています[13]。
中期経営計画では、配当性向を段階的に引き上げる方針を示しており、計画最終年度(FY2025)に向けて配当性向を35%から50%まで引き上げる計画です[14]。
自社株買い¶
全国保証は株主還元策として、配当に加えて機動的な自社株買いを実施する方針を示しています。2024年3月期の決算説明資料では、最大70億円の自社株買いを実施し、企業価値向上および株主還元の充実を図る計画が発表されています[15]。
なお、株主優待制度は2026年3月実施分をもって廃止されることが決定しており、今後は配当と自社株買いを中心とした株主還元を行う方針です[16]。
リスク要因¶
投資判断を行う上で考慮すべき主なリスク要因は以下の通りです:
- 雇用情勢の悪化
雇用情勢の大幅な悪化によるデフォルト率の急上昇リスク
- 住宅価格の下落
住宅価格の大幅下落に伴う求償債権の回収率低下リスク
- 不正申込みリスク
大規模な住宅ローン不正申込みの発生による信用リスク
- 競合リスク
競合他社の出現による保証料率の低下リスク
- 大規模災害リスク
大規模災害発生による団体信用生命保険関連の収支悪化
- 運用リスク
余資運用における大規模な損失発生リスク
- 保証残高減少リスク
新規保証実行の急減や繰上返済増加による保証債務残高への下方圧力
投資判断のポイント¶
投資魅力¶
- 安定した収益基盤
保証債務残高に連動するストック型の収益モデルにより、安定した収益を確保
- 高い成長性
住宅ローン市場全体の成長率を上回るペースでの保証債務残高の拡大
- 独自のポジション
独立系保証会社としての独自のポジションと競争優位性
- 積極的な株主還元
増配傾向と自社株買いによる株主還元の強化
- 魅力的な配当利回り
3%台後半の配当利回りは投資収益の観点から魅力的
注視すべきポイント¶
- 市場環境の変化
金利上昇や住宅市場の冷え込みが保証事業に与える影響
- 経済情勢の変動
雇用環境や景気動向が代位弁済率に与える影響
- 規制変更リスク
金融規制や住宅ローン関連の法規制変更の可能性
- インオーガニック成長の実現性
M&Aや債権譲渡による成長戦略の進捗状況
結論¶
全国保証(7164)は、住宅ローン保証という安定したビジネスモデルを基盤に、独立系保証会社としての強みを活かして着実な成長を続けています。保証債務残高の拡大による安定的な収益確保と、積極的な株主還元策により、中長期的な投資先として魅力的なポジションにあると言えます。
特に、約3.4%の配当利回りは、現在の低金利環境において魅力的な水準であり、株主還元強化の方針が示されていることから、配当志向の個人投資家にとって注目すべき銘柄です。
中期経営計画「Next Phase」に基づく成長戦略の進捗と、経済環境や住宅市場の動向を注視しつつ、投資判断を行うことが重要です。
参考文献¶
以下の情報源を参考に本レポートを作成しました。